2010年9月14日火曜日

ジーガー・ケーダー神父 7 ローゼンベルク教会祭壇画(6)

いよいよ最後の右翼の絵です。
この絵は、一見しただけでは何をモティーフにしているのかよく分かりません。真ん中の女性が嘆いているようですが、青い服を着ていないので、母マリアというわけではありません。

彼女の後ろには、こどもを抱きかかえている3人の女性がいます。

この女性はエレミヤ31:15に書かれているラケルです。

ラマで声が聞こえる、
苦悩に満ちて嘆き、泣く声が。
ラケルが息子たちのゆえに泣いている。(31:15)

ラケルは、ヤコブの妻でヨセフとベンジャミンの母親です。そして、長い間こどもに恵まれなかったラケルからようやく生まれたヨセフは、他の兄弟たちの反感を買い、エジプトに売られていくことになります。母ラケルの息子を失った苦しみを、預言者エレミヤが、バビロン捕囚でこどもたちを奪われてしまった母親の苦しみとして登場させているわけです。

エレミヤ書ではこのラケルに対して、次のように言われています。

泣きやむがよい。
目から涙をぬぐいなさい。
あなたの苦しみは報いられると、と主は言われる。
息子たちは敵の国から帰ってくる。

ここには、具体的にはバビロンからこどもたちが帰ってくることが具体的に示されています。
そして、このモティーフがマリアの嘆きの横に置かれているのは、ラケル、イスラエルの母たちの苦しみとマリアの苦しみが同一視されていると言うことです。

そして、それは聖書の世界にとどまるものではありません。

実は、この母親の嘆きとまた希望は、この地方の母親たちが戦争中に経験したことでした。戦争のなんから逃れるために、たくさんの母親とこどもたちはこの地方に疎開していたのですが、もとの故郷に帰ることは出来ませんでした。しかし、彼らはこの地方に再び自分たちの故郷を見いだし、ここに住み始めたわけです。彼女たちの後ろには、雪の中疎開している様子が描かれています。

ラケルの苦しみ
  ↓
捕囚を経験した母親の苦しみ
  ↓
イエスの死を経験したマリアの苦しみ
  ↓
戦争で故郷を失った母親たちの苦しみ

という繋がりが描かれています。


そして、そこにはどれも具体的な希望の約束とその実現があります。イエスの十字架と共に描かれることによって、その希望はもっと確実なものとなります。

そして、それがラケルの左のバラの花に象徴されています。このバラの花と対になっているのが、左翼のイエスの十字架の下の方に描かれている茨と白バラです。この白バラは、イエスの血によって赤バラ(愛の象徴)へと変えられているわけです。
ラケルの上には、大きな手がかかれています。神の手です。その神の手の中で、母とこどもが安らいでるのが見えるでしょうか。

その約束を見上げ、まさにそれを受け取るかのように広げられたラケルの大きな手が象徴的です。

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