2011年8月20日土曜日

映画「一枚のハガキ」

北海道の話はちょっと中断して

99才の新藤兼人監督の実体験をもとにして作られた映画「一枚のハガキ」を見てきました。この映画は、新藤兼人監督が「戦争は非人間的で、人間性を無視するもの。戦争の証人として、事実を伝えたかった」と語る、反戦と人間の悲しさと生きる力を描いた作品です。

戦争で知り合った一人の兵隊から託された一枚のハガキを巡って、物語は展開します。何もかも失い、生きる希望も方向も無くした人間が、不毛の地、度重なる不幸を経験した土地に「ここに一粒の麦を植えよう」と語り、2人の男女が生きる力を再び得て、生きていく姿がラストシーンで描かれています(詳しいストーリーは映画をご覧ください)。

この男女はまるでアダムとイブのようであり、映画のラストを導く「一粒の麦」はイエスの言葉の「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」(ヨハネ12:24)の言葉を思い起こさせます。脚本も書かれた新藤兼人監督がどれほど聖書を意識されたのか知りませんが、監督の経験に基づいた物語でありながら、聖書のモチーフが散りばめられた作品でもあります。

妻から兵隊の夫に送られた一枚のハガキには、たった一文だけが書かれています。

今日はお祭りですが
あなたがいらっしゃらないので
何の風情もありません。

一文だけに。とても印象的でした。

「お国のため」と戦争に参加していく人々、戦争はまるで祭りのように人々をその渦に巻き込んでいくが、その中で最も大切なものは「あなたがいない」という現実であり、その現実が戦争という虚妄の祭り(「何の風情もない」)の仮面を剥いでいくようでした。

ぜひ、ご一見ください。

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